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自治体DX推進の外部人材スキル標準を満たす、優秀な人材を採用するのは難しい

2023年08月20日 更新2023年08月20日 公開

自治体DX推進のための外部人材スキル標準というものが、総務省で定められています。でも、こんな優秀なIT人材を採用することは、難しいと感じています。IT業界でも、優秀なDX人材を採用するのは難しいからです。

プロデューサーに求めるスキルがすごすぎる

全庁的な自治体DXの企画・推進をするプロデューサーの採用が、一番難しいように感じました。求められるテクニカルスキルがすごすぎるからです。

自治体DXの全体知識の把握から戦略立案、UI・UXのデザインスキル、データアナリスト、情報セキュリティまで、幅広いスキルを求められているからです。

これだけ優秀な人材がいたら、とっくに起業して成功しているスキルレベルです。求められているテクニカルスキルは、以下となっています。

自治体DX推進計画のための外部人材スキル標準(プロデューサー、プロジェクトマネージャー)

*「自治体DX推進のための外部人材スキル標準」を参照

全体方針立案

「ガバメントクラウド、マイナポータル等、国の自治体DXに関する政策の動向を把握するとともに、まちづくりの視点を踏まえつつ、相互に関連するDXの取組みを総合的かつ効果的に実施し、全庁的にDXを強力に推進していくための全体方針を立案。(必要に応じ個別の取組に関する計画を策定)」

国のDXの動向を把握できていれば、自分で起業して自治体向けビジネスを展開して成功しているはずです。

サービスデザイン思考

「利用者の本質的なニーズに基づき、利用者に「使っていただく」という意識でサービス・業務を企画・デザイン」

サービスデザインをどこまでの範囲で定義しているかによりますが、サービス設計からUI・UX設計までするとなれば、とても優秀な人材となります。また、成功するサービス設計をできる人は少ないです。

技術・データの活用

「自治体DXを進める上で生じた課題の解決に資する、適切なデジタル技術の導入やデータの活用を助言。」

大枠の技術、データ活用なら提案できるでしょうが、本当に詳細な技術、データ活用の提案は専門家でないと助言することは難しいでしょう。

適切な技術、データの導入の最終決定できる知識があればいいと思いますが、専門スキルまで求められたらかなり厳しいと思います。

情報セキュリティ

「三層の対策など、自治体の情報セキュリティポリシーに関する国の政策動向や情報セキュリティ技術に関する知識に基づき、自団体の実態に応じて情報セキュリティポリシーを見直し。」

情報セキュリティをどこまで守ればいいかというのは言えると思うのですが、厳密なセキュリティ体制を構築するには、セキュリティの専門家の知識が必要です。

地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和5年3月版)」を完全理解する必要があります。このスキルまで持っている人は、かなり少ないと思います。

プロジェクトマネージャー

プロジェクトマネージャーだけは、妥当なスキル設定になっているなと思います。工数管理と納期管理ができればOKです。適切なリマインドができることが、大事なスキルだからです。

サービスデザイナーに求めるスキルが多すぎる

「各プロジェクトにおけるサービス・業務の設計」

をするサービスデザイナーも、求めるスキルが多すぎるなと感じました。

自治体DX推進計画のための外部人材スキル標準(サービスデザイナー、エンジニア)

*「自治体DX推進のための外部人材スキル標準」を参照

UI技術

「利用者にとって使いやすいサービスを実現するため、ソフトウェアの操作画面など利用者と情報システムとの接点(UI:ユーザーインターフェイス)を設計。」

UX技術

「人間中心設計やデザインリサーチなどの方法論(フィールドワーク、参与観察などの各種定性調査手法)を利用することにより、利用者にとって望ましいサービスの利用体験(UX:ユーザーエクスペリエンス)を設計。」

昔はUI・UXデザイナーとまとめられていましたが、最近ではUIデザイナー、UXデザイナーに分かれるほどに、専門性が高いスキルとなっています。

UI・UXの両方できる優秀なデザイナーもいますが、数はかなり少ないです。全部できる人を採用するのは、かなり難しいと思います。

データ活用

「業務の効率化、行政サービスの改善や地域社会のデジタル化のために、自治体が保有するデータを活用する。」

UI・UXデザインをするうえで、データ活用は大切です。しかし、データアナリスト、データデザイナー系のスキルに近いようにも感じます。

UI・UX系のデザインスキルもあって、データ分析・活用までしっかりできる人は少ないです。デザイナーがなんでもできると考え、スキルセットをごっちゃに考えているように思います。

デザイン系のスキルが漏れている

サービスデザイナーがいるのはいいのですが、肝心のデザインスキルが漏れているように思います。

画像などを作るデザインスキルが漏れているし、基幹システムであっても管理画面のデザインスキルも必要です。

ホームページやアプリを活用したDXサービスにするなら、ホームページデザイン、アプリデザインも発生します。コーダーも必要です。必要なスキルにヌケモレがあるように感じます。

エンジニアを軽視している

「各プロジェクトにおけるサービス・業務の実装」

をエンジニアに求めるスキルが簡単に書かれてすぎており、エンジニアが軽視されていることに危機感を覚えます。

エンジニアを重要視しないと、サービス開発はうまくいかないですし、一番採用が難しい職種です。

要求分析

「サービス利用者(住民・職員)が求めている要望を可視化し、デジタルツールで実現する要件を具体化。」

要望を可視化するのは、プロデューサーなどの仕事だと思います。要望を可視化できるエンジニアは、優秀なCEOになれます。

デジタルツール実装

「具体化した要件を実現するため、適切なデジタルツール(RPA・ノーコードツール等)を実装。」

ノーコードツールを実装ってさらっと書いていますが、実装がすごく大変だと思うのですが…

独力開発できるエンジニアは優秀

自治体DX推進に必要とされるエンジニアのITスキル標準は、レベル3相当以上求められています。

「要求された作業を全て独力で遂行する。スキルの専門分野確立を目指し、プロフェッショナルとなるために必要な応用的知識・技能を有する。スキル開発においても自らのスキルの研鑽を継続することが求められる。」

レベル3って聞くと低いように思いますが、全部自分で開発できるエンジニアなんて少ないです。全部自分で開発できるのは、ものすごく優秀なエンジニアです。

そして、この書き方だとフロントエンド、バックエンド、アプリ開発とか全部独力で開発できるエンジニアを採用しなきゃと、採用側が勘違いする気もします。

ちなみに、私は10年以上Web業界にいましたが、ITスキル標準なんて基準で採用するという話は聞きませんでした。資格やスキルでITスキルは判定できないものなのです。

<参考情報>

1人で複数の役割まで求められる

「複数の役割を1人で担う場合や、1つの役割を複数人で担う場合も想定されます。例えば、カテゴリーNo.2のプロジェクトマネージャーと No.3のサービスデザイナーを1人で担う場合や、カテゴリーNo.1を分担して担うこともあります。」

さらっと書いてありますが、そんな優秀な人材は基本的にいないです。複数の役割ができる人なら、とっくに起業して成功しています。

1人の人材に多くのスキルを求めるよりも、1つの役割の細分化をして採用したほうが、採用はしやすいと思いました。

ただ、自治体単体で採用するのは難しいと感じているので、広域で自治体DXができる人材を採用し、人材共有したほうがいいでしょう。

そのほうが、優秀な人材を採用しやすいし、使いやすい行政サービスが開発できるチームを作りやすいと思います。

感想

自治体DX推進計画の外部人材スキル標準を見ていると、求める人材が優秀すぎるなと感じました。

もちろん、自治体DXは住民のためのシステムになるので、これくらい優秀なスキルが必要なこともわかります。

しかし、これだけ優秀な人材は簡単に採用できません。自治体単独で採用するのは難しいので、広域でDX推進体制を構築したほうがいいように感じました。

これを全自治体でやらせようとしているのは、無理ゲーに近いと感じました。やはり、人材共有や広域開発がポイントになると思います。以下のページも参考にしてください。

参考ページ

著者

とばひさし とば ひさし
武豊町議会議員
IT・Web会社の社長
詳細プロフィール

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